研究内容

研究内容

私たちのグループでは、ビッグバン直後から現在に至る宇宙の様々な時代に、星・ブラックホールから銀河・銀河団に至る宇宙の様々な階層の構造がどのように形成・進化したかについて、数値シミュレーションやそれに基づく準解析モデルといった理論的手法を用いて解明を進めています。

初代星

ビッグバンの後、光を出す天体が全く存在しなかった「宇宙の暗黒時代」に初めて生まれた天体が、宇宙で最初の世代の星(=初代星)です。ビッグバンの際に刻まれた初期密度ゆらぎを種に、物質が重力的に集まって初代星を作るまでの過程を主に数値シミュレーションによって調べています。宇宙マイクロ波背景輻射の観測等から初期密度ゆらぎの性質はよく制限されており、また、初代星形成に関わる物理素過程の理解も確立していることから、第一原理的な研究が可能なことが魅力です。

図: シミュレーションから得られた初代星連星

初代銀河

「宇宙の暗黒時代」は初代星の形成と共に終わりを迎え、光り輝く星々が次々と生まれていく「宇宙の夜明け」と言われる時代が幕を開けます。銀河とはたくさんの星が集まった天体ですが、宇宙で最初の世代の銀河=初代銀河は、「宇宙の夜明け」の時代に初代星より少し遅れて現れたと考えられています。そのため、初代銀河の研究では、初代星形成の時期を越えて宇宙の進化をシミュレーションします。初代銀河形成は、ガスから星が生まれ、やがてブラックホールまで進化するといった天体形成過程や、それらの天体(の近傍)から放出される強力なガス流や光による周辺環境へのフィードバック過程など、様々な物理過程が複雑に絡み合うダイナミックな現象であり、私たちはそれにシミュレーションから迫ろうとしています。最近、2021年にジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられ、初代銀河が形成した時代の宇宙の観測が急速に進み始めており、初代銀河の理論を進めることの重要性は以前にも増して高まっています。

図:シミュレーションから得られた不規則構造を持つ初代銀河
図:初代銀河の時代を観測から切り拓くジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

銀河・銀河団

銀河やその集合体である銀河団は、我々の宇宙に存在する最大スケールの天体です。それらがビッグバンから現在に至るまでどのように形成・進化してきたかを明らかにすることは、そのまま宇宙の進化を明らかにすることに繋がります。銀河・銀河団の形成・進化過程を完全に記述することは現在の計算機資源を持ってしても困難ですが、最近では、現象論的モデルと数値シミュレーションを組み合わせることで、銀河・銀河団の観測的特徴をよく再現することが可能になっています。活発に進められている銀河の観測的研究とも協調しながら、実際の宇宙の進化どのようなものであったか、理論側から明らかにすることに取り組んでいます。

図:渦巻き銀河における星形成過程のシミュレーション
図:メイン銀河に衛星銀河が衝突する過程のシミュレーション

超巨大ブラックホール

ほとんどの銀河の中心に存在することが観測から示唆されている、太陽の100万倍以上の質量を持つ超巨大ブラックホールは、銀河の進化にも大きな影響を与える重要な天体です。そのような莫大な質量のブラックホールは、直接形成するのではなく、寿命を終えた大質量星から種となるブラックホールが作られ、それが周囲の物質を吸い込み成長するという二段階の過程を経て形成したと考えられています。超巨大ブラックホールの起源を明らかにするために、種ブラックホールの形成・進化の研究を進めています。また、超巨大ブラックホールの質量は、そのブラックホールを持つ銀河のバルジ(銀河中心部の楕円体の構造)の質量や速度分散と強い相関を持つことが知られています。これはブラックホールの成長が銀河の成長に影響を与えた(もしくはその逆)結果と考えられており、共進化と呼ばれています。そこで、超大質量ブラックホールを含む銀河形成シミュレーションを行い、共進化の仕組みを明らかにするための研究も行っています。

図:ガス中を運動するブラックホールへのガス降着シミュレーション

分子雲

銀河を構成する星々の起源を明らかにする上で、スケールがかけ離れた銀河と星の間を繋ぐ架け橋のような天体である分子雲の理解が鍵を握る。分子雲とは、水素分子を主成分とする高密度ガス雲のことで、銀河の多くの体積を占める低密度の中性水素原子ガスの密度が上昇することで形成し、分子雲の中で特に密度の高いところではガスが自分自身の重力(自己重力)によって暴走的に集積して一つ一つの星が生まれていく。銀河スケールで分子雲がどのように形成するか、また、分子雲スケールで星形成がどのように進むかについて、シミュレーションを用いて研究を進めています。

図:分子雲衝突の際に誘発される星形成過程のシミュレーション

研究手法について

私たちが研究対象とする宇宙の構造の形成・進化は、非常に複雑な非線形過程であり、その解明を進める上で数値シミュレーションが強力な武器となります。私たちは、理研の「富岳」や国立天文台の「Aterui II」といったスパコンを用いて、大規模な数値流体シミュレーションを進めています。シミュレーションのコードは、多くの場合、公開・非公開の流体コードから目的に応じて適切なベースとなるコードを選び、それに独自の改造を加えたものを用います。私たちがこれまでに利用したコードには、「AREPO」、「Athena++」、「Enzo」、「GADGET」、「GASOLINE」、「GIZMO」、「Pluto」、「Ramses」、「SFUMATO」(アルファベット順)があります。基盤となる流体力学や重力に加えて、輻射、磁場、化学反応、冷却・加熱などの素過程や、星形成、超新星爆発、活動銀河核などの現象論モデルを組み込み、シミュレーションをおこないます。また、シミュレーションは非常に計算コストがかかるので、シミュレーション結果に基づいて準解析的モデルを構築し、観測との比較によるモデルの制限なども進めています。

図:国立天文台所有のスパコン「Aterui II」、天文学専用の計算機としては世界最大規模
図:理研所有のスパコン「富岳」、2022年時点で世界一位の性能を記録