「キタのクニから '99 〜旅立ち〜 」

その1:ドナドナ

7月22日

 北海道から海外旅行へ行く場合、まず国内の移動にかかるお金をどれだけ節約するかがポイントになる。そこで僕達は、夏の学校という天文の若手の集まり(今年は東京開催)に参加する後輩クンの車に便乗させてもらい、フェーリーを使って安くあげることにした。全て後輩クンではわけが分からなくなるので、ドライバーをすだたく(仮名)、もう一人の夏の学校参加者の後輩クンをきょんすけ(仮名)と呼ぶことにする。一緒に国外逃亡する後輩クンは後輩クン(仮名)のまま。

 そうなると問題はすだたくの車である。一つ前の型の RX-7 (FC) なのだが、これに 4 人乗ると考えただけでおえっぷである。え、後部座席なんてあったっけ?そんな感じ。後ろに乗る 2 名は膝をお腹にくっつけ、背中を丸めて、首を前に倒し、胎児のポーズで FC と一体になる事を要求される。苦行である。まあこれはじゃんけんで犠牲者を決めるしかない。

 真の問題はこの後輩が悪徳中古屋に非常に問題のある FC をつかまされたことに起因する。簡単に言えば、買って数ヶ月なのに、壊れて壊れてコワレテ、本来ならエンジンの載せ換え、もしくはオーバーホールが必要で、いつエンジンが止まってもおかしくない状態にあるということである。実際止まって動かなくなった実績もシッカリあるのだ。それに比べれば、ブレーキがふっかふかなんてことは些細な問題である。

 そんな車なので、すだたくから研究室で待つ僕達に、「ちょっと遅れます」という連絡が入った時は「もしやエンジンがかからないのでは?」と真剣に心配になった。一応、まだ電車で行けば間に合う時間である。じりじりと時間が過ぎてそろそろ車を待つか、電車で行くか決断を迫られる時刻に。

 流石に、エンジンがかからないならそのムネ連絡してくるだろうと思ったので勇気を振り絞って待つことに。しばらくするとすだたくときょんすけが連れ立って登場。うん、まだらくらく間に合う時間だ。何も起こらなければ。

 さて、乗車という段になり命がけのジャンケンが始まる。負ける。シクシクと身体を丸めて後部座席に乗り込む。後頭部は天井にフィット、背中丸めて膝をかかえ、弁慶の泣き所は助手席の後にフィット。もはや僕ときょんすけは壊れ FC のパーツそのものである。

 そんで出発。セルの回る音が響き渡る。そしてセルの回る音だけが響く。あれ?エンジンは?ちょっぴり青ざめた顔に薄笑いを浮かべる僕と後輩クン。もう電車はナイのだ。必死でセルを回してるとようやくエンジンがかかる。ほっ。

 さて、後は苫小牧に行くだけ。何処かで国道 12 号に乗らないとネ、なんて言いながら 36 号線をずんずん進む。車の中ではくぐもった音でジュディマリが鳴り響く。何故か?それを説明するには数日遡らなければならない。以下は、すだたくの日記(7/17)からの転載である。

今日試しにカセットデッキをつけてみた。(そういえば車に乗るのも久しぶり)コードと端子をつなぐと音が出ないしディスプレイも表示は見えない。やっぱりテープはだめかな、と思いラジオに切り替えると「ジュディマリ」の曲が・・そして、車のうしろに生えているアンテナがウイーンと音を立てて伸びる。なるほど、アンテナは自動で動くんだ、と初めて気づいた。

ラジオ番組でこの曲が流れるなんて・・と思いつつ液晶切れで非常に見にくいディスプレイをよーく見ると、周波数は522ヘルツ。これってNHKじゃないの?とか思ったが、スピーカーもちゃんと4カ所から音が出ているので大丈夫そうだ。と思ったら次の曲もジュディマリ。あれ?普通連続で曲流すか?と疑問に思い始めたのでカセットのほうに切り替えて再生やイジェクトをいじる。

何も作動しないのでテープを入れてみようとすると、テープが入ってるらしく、中に入らない???どうやらラジオの方でテープが再生するらしい。しかもどのボタンを押しても動かない。ということはジュディマリのテープを聴くことしかできないということか。

まあ、まったく音が出ないよりはいいか、と思って走っていると、何やら曲の合間にかすかに男の声が聞こえる。もしや、以前話題になったレベッカのCDに入っている声のようなものでは!とほんとに思ったが、よく聞くと機械的なアナウンサーの声だった。ラジオも一緒に音が出ているようだ。どうやったらこうなるんだ???

 ご理解いただけただろうか?すだたくは、ラジオの周波数をずらす事でテープの音だけが聞こえるようにしていたのだ。故にエンドレス・ジュディマリ状態。

 そうこうしてる間に 12 号線に乗り、ぐんぐん進む。ここできょんすけが、あれ? 12 号って旭川方面じゃなかったっけ?と言い出す。そういえばそう。えぃと・・苫小牧に行くには・・あっ 36 号でいいんじゃん。ってことでまた 36 号線を目指す。車運転してるヤツが 3 人もいてヒドイ話である。

 そのうちナンカ暑くない?という話になる。エアコン効いてる?と前の座席の連中に尋ねると、ええ、風は出てますよ。との返事。良く見ると暖房になってます。イヤ今日初めてだからなどと言い訳するすだたく。

 しかし、しばらく待っても涼しくならず、それどころか異臭まで漂い出す。あきらめて窓を開ける我々。この方がナンボか涼しい。

 途中で、このままでは間に合いそうにないということで高速に乗る。流石に窓を開けたままではツライので窓を閉めると、今度は寒いくらいに冷房が効きだす。おぉ、涼しいですぅなんてことを言いながら苫小牧着。高速をおりてフェリー港へ向かう。

 するとナンとしたことだろう。また車内の気温が上がってきたのだ。ロータリーだけにエアコンも高回転型なのカモなんて適当なことをヌかしながらフェリー港到着。まずは乗船手続きだ。

 つつがなく乗船手続きを終え、すだたくと別れて我々は待合室へ。ドライバーは車に乗って待ってなきゃいけないの。フェリーの中で食べるパンやカップらーめんを購入し、ぼへっと乗船開始待っていると何故か車に乗ってるはずのすだたくが現れた。

「エンジンがかかりません!!」
ハンベをかきながらすだたくはそう言った。実際のところもうフェリー港まで来てしまったのでフェリーを降りた後電車を使えば、車が 1 mm 足りとも動かなくても僕と後輩クンは困らないのだが、一応、「荷物見ててあげるからきょんすけ手伝ってきな」なんて言ってまたぼへぇと待つ。

 しばらくするときょんすけとすだたくが手を×にしながら現れた。ダメだったのね。一応係りの人に事情を話して出発 15 分前までまってもらえることになったらしいが、それではどうしようもない。バッテリーが上がったとかなら JAF を呼べばなんとかなりそうだがこれは明らかにエンジン★トラブルなのである。

 話し込んでいても仕方がないので荷物番に後輩クンを残して僕もご機嫌伺いに行くことにした。しかし、エンジンルームなんて覗き込んでも全然分からんのよねぇ。試しにきょんすけがエンジンがけにトライ。僕とすだたくが不信な挙動が見られないか見張ることに。

 きょんすけが異様に長い間セルを回し続け、アクセルをパタパタさせていると突然エンジンが回り出した。わぁい♪しかし、回転が不安定でアクセルを緩めると今にも止まりそう。しばらく様子を見てると安定してきたのですだたくを残して我々は待合室へ行った。

 フェリーに乗り込み、御風呂に入って 2 等に雑魚寝。明日、フェリーの中でエンジンがかからなくなったらどうするんだろうなんて考えながら。しかし、当のすだたくは早くもスヤスヤ。その神経の太さに感心しながら僕も眠りにつく。



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