「やってんだろ?ほんとは」

 喉が渇いていた。冷たいお茶が欲しい。冷蔵庫を開ける。一気にグラスにお茶を注ぎぐいっと飲む!だぁ 全部胸に零れてしまった。そう、グラスを傾けながら口に近づけたのだが傾ける速度がやや速すぎたのだ。ちょっとタイミングがずれただけさ。こんなことは日常茶飯事。人間には良くあることさ。

 ドアを開ける時も危険である。急いでいればいるほど危険である。ドアを開ける動作と通り抜ける動作を同時にやろうとしてしまうのだ。タイミングが合えば効率的この上ないのだが、失敗するとひどいことになる。特に、手前に開くドアの時は悲惨だ。ドアを手前に引く速さ を V0 とし 僕の通り抜ける速さを V1 とすると相対速度は V0 + V1 になってしまう。特殊相対論を考えた場合相対速度はもう少し小さな値になるが、まだ光速に近い速度でドアに飛び込んだことはないので、非相対論的極限を考えて問題あるまい。 ま、なにはともあれドアにぶつかると痛いのだ。たんこぶを作ってしまったことも一度や二度ではない。

 で、そんな話を友人にした。お茶を飲む時、ドアを開ける時の危険について語り合おうと思ったのだ。シンパシーが欲しかったのだ。話の途中から友人の僕を見る目が変わってきた。シンパシーはシンパシーでも共感ではなく同情が奴の目に浮かんでいる。「かわいそうに、この人どこかおかしいのね」って目である。「そーゆーことってあるよな」、共感を求めて駄目押しをする僕に友人は言った。「断じてない。」きっぱりという日本語のお手本のような返事であった。驚きである。友人はコップが口に届く前に傾けすぎることも、ドアを開きながら体当たりすることも、冷蔵庫の扉を開きながら中を覗き込もうと思って頭を強打してしまったこともないと言うのだ!!いと信じ難しである。友人がうそをついているのか僕がうっかり非典型的なサンプルに同意を求めてしまったに違いない。うそはいかんぞ中村(仮名)。

 そして僕は聞き込みを開始した。捜査の基本は足だ。プロファイリングやサイコメトリーなど邪道と言いきって差し支えあるまい。しんぱし〜を求めて30分。僕はただの同情コレクターと化していた。違う!!断じてそんな物を欲していたのではない。ただ一言「うん、そーだね」と言ってくれれば良いのだ。

 しかしこれで問題は簡単になった。可能性は二つしかない。

  • みんながうそをついている。 
  • 岡本はどっか壊れている。
後者の可能性は除外していいだろう。言うまでもなく僕は壊れていない。ということはつまりそういうことである。

やってんだろぉ?ほんとはおまえらも

うそはいかんぞ。


モドル

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