"Shall We Dance?"

 
 中学の時、部活(剣道部)に"みやちん"(仮名?)と呼ばれる男がいた。名字の最初の二文字に”ちん”を付けるという、知性のまったく感じられないあだ名の付け方だがそれは彼の責任ではないし、ロバートをボブと呼ぶよりは分かり易い。で、彼は身長に比して体積の大きな体の持ち主であった。質量の方も推して知るべしである。

 彼の体型は僕の創作意欲を刺激した。そして、僕は「○○ちんダンス」を考案した。作詞・作曲・振り付け 岡本崇である。最低である。「○○」の部分には、匿名性を確保するに留まらず、彼の体型を表現するという大事な役割がある。ちなみに「まるまるちんだんす」と読むのが正しい。僕は、このダンスをこの手の話に異常に乗りやすい小島(仮名)に教えた。今後のために口裏も合わせておく。二人で踊り狂って他の部員にも踊りを教える。今や気分は evangelist !! 所詮は中学生。人を小ばかにした踊りを見せ付けられては踊らずにはいられないらしい。みんな楽しそうに踊り出した。最低だ。

 ついにみやちんが現れた。「何をやっておるのだ?」などとのんきに聞いてくる。慎重にかからねば。これからが最もおいしいところだ。「○○ちんダンス」である、と答える。みやちんの顔が曇る。当然だ。さぁ、出番だ小島(仮名)!!「○○ちん」は『こばちん(仮名?)』のことなのだよ、と小島が言う。予定通りだ。こばちんは同じ学年のとある男性である。みやちんと同様名づけ方に知性が感じられないがやはり彼の責任ではない。みやちんを大関とすればこばちんは横綱である。同じ「ちん」もちで、同じような体型。カモフラージュするためには絶好の人材といえよう。さらに、○○というのは彼のめがねを表しているのだ、と僕が続ける。口の上手さには定評がある。言い訳させたら日本一。なんの自慢にもなってない。取りあえず、みやちんは納得してくれた。

 ここからだ、楽しいのは。我々はみやちんを踊りへと誘った。「さぁ、みやちんもごいっしょに♪ Shall we dance?」そして彼は踊り出した。にこやかに。踊る剣道部の完成である。すばらしい。彼が、彼の体型を表すための振り付けを実行するたび、「みやちんには必要無いのだが・・」と笑いをこらえる我々であった。笑いをこらえて踊るのはなかなか腹筋を酷使する。

 最近地元に帰った際にすっかりスマートになったみやちんと会った。小太りになった小島もいた。○○ちんダンスの話になった。
彼は言った。「おれ、顔で笑っててもさぁ・・心では泣いていたと思うよ。」
さもあらん。悪かった。


 
 
 


モドル

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