「薬指の欠陥」

 耳が無意識にダンボなのである。その気はないのに周囲のどうでもいい会話が耳に入ってくるのだ。僕の耳はそんな風に出来ているようである。空港で飛行機から降りる時も、後ろの人の会話が耳に入ってきた。

   「薬指の第一関節から下は小指なのよねぇ」

? 何なのだ?どういうことなのだ、それは?左手が右手の男のようなものであろうか。振り向きたい誘惑に駆られたが、その行動はあまりに不自然だと思い、淡々と荷物を受け取る場所へ向かう僕であった。

 しかし、薬指の第一関節から下が小指だったら困ったことになりはしないだろうか?例えばである、この女性にお付き合いしている男性がいたとしよう。彼が、一大決心をして給料の3ヶ月分を指輪に変換し、腑抜けた言葉と共に彼女に手渡したとしよう。しかし、その指輪は決して彼女の薬指にはめられることはないのだ。なぜならば、指輪とは第一関節より先にはめるようには出来ていないからだ。つまり、給料3ヶ月分は無駄になるのである。彼氏は逆上しないだろうか?おそらくするだろう。あまつさえ、思い余って心中などと言うことになるかもしれない。貴い若い命が二つ失われるかもしれないのだ。救いの無い話である。

 等とぶつぶつ考えている間に、うっかり荷物を受け取らずに出口を出てしまいそうになる間抜けな僕であった。僕の荷物がまわって来るのを待つ間、自分の薬指をクキクキしながら、第一関節から下が小指という現象についてしばらく考えていた。薬指の第一関節をクキクキ折り曲げる。次に、第二関節をクキクキ。おや?もしやこれのことか?この程度のことなら誰も死なずに済む。だが、この場合は、第二関節は薬指だが、第一関節は小指といった感覚である。第一関節から下が小指という表現とは矛盾する。やはり心中か。

 その後もいろいろ考えてみたのだが結局良く分からなかった。足の指に関しては、中指が薬指だと言うことは周知の事実だと思われるのであえてここには書かない。


モドル

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