「時には映画のように」

 閉まりかけのシャッターの下に滑り込んで脱出、などというシーンがつまらない映画や漫画には良く使われる。まぁ、普通に生きてる普通の人は滅多なことではシャッターの隙間に飛び込む必要はない。

 しかし、その日の僕はいつものように愚かだった。十分なお金を持たずに買い物に出てしまったのだ。ちなみに土曜日夕方。駅の中でキャッシュコーナーを探してきょろきょろする僕。その時僕の目に郵便局のキャッシュコーナーが飛び込んできた。おお!これぞ天の助け。神は常に私の傍らにいらっしゃる。さっそくお金を引き出す。後ろから女性の声を模した機械音が聞こえる。おそらくどこかの馬鹿がキャッシュカードか何かを忘れて行ってしまったのであろう、などと思いながら暗証番号を打ち込む。ぴ ぽ ぱ

 さて金額は・・・4万もあれば足りるであろう。ぴ ぽ ぱ
まだ後ろで声がする。ガラガラという音まで聞こえる。いったい何だと言うのだ、うるさいなぁ〜。ちょっと気になったので耳を澄ましてみる。
「本日のご利用時間は終了致しました。シャッターが閉まりますので速やかに立ち退いて下さい(みたいなことを言っていた)」
え゛? 後ろを振り向くとシャッターはすでに腰のあたりまで降りてきている。シャッター降ろすよりも先に ATM の使用を停止してくれよぉ〜
しかし、ATM は立派に動いている。あまつさえ、”交信中です・しばらくお待ち下さい。”などというメッセージが出ている。しばらく待ってたらシャッター閉まってしまうがな!!ここで僕は決断を迫られた。4万円とキャッシュカードを置いてひとまずシャッターの外へ非難するか、金に目が眩んでここに閉じ込められるかだ。考えるまでも無い。どっちもいや

 すばやくシャッターの下に潜り込み、肩で支える。結構重いね。早く出てきて、お金とカード。下がる速さは落ちたがシャッター止まらず。ピーピーピー。警報みたいな音まで鳴り出した。聞こえまへんなぁ〜。
やがて無限とも思われる時間が過ぎ、お金とカードが出てきた。サイドステップで素早く ATM まで行き、ひったくるようにそれらを掴む。やってて良かった硬式テニス。既に、シャッターと床の隙間は30cmほどしかない。その隙間に転がるように飛び込んだ。セーフ。周囲を見ると人垣が出来ていた。視線が痛かった。


モドル

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