「大学の怪談」

 大抵の学校には階段があるものであり、それは夜中の 2 時くらいに 12 段しかないはずが 13 段目が出現する等のお茶目な性質を持っていたりする。そしてその手の話しは 7 つと相場が決まっている。しかし、大学ではこのような話しを耳にしたことが無い。それはやはり、夜中でも普通に人がいる、研究室によっては夜中の方が午前中よりも人口が多いといった特殊な性質によるものだろう。

 うちの大学の場合、毎年雪解けと共に原生林から身元不明の死体が発見されたりするが、これもほぼ日常と化しているため別に誰の恐怖も誘わない。従って幽霊話なども囁かれ ないわけである。

 さて、最も怪談と呼ぶにふさわしい噂を一つ挙げろと言われた場合、僕は迷わず北大ホモおやぢを挙げる。彼について、ホモとの遭遇の多い某知り合いはこのように語っていた。

  1. 男にしか声をかけない。 ← 当然
  2. 「農学部はどこですか?」が決り文句。
  3. たまには「ポプラ並木はどこですか?」と言ってみたりもする。
  4. 必ず、札幌初日という設定である。
  5. 良く分からないうちに飲みにつれていかれる。
  6. 気前が良い。
  7. まだ、襲われたという人はいない(黙っているだけカモ)。

 さて、その遭遇の多い知り合いであるが、彼も当然声をかけられたことがある。初回は理学部前で。

今日札幌来たところなんですよぉ、農学部がどこにあるか教えてもらえませんか?

 工夫のない男である。彼は忙しかったため農学部までの道を教え(理学部の隣)追いすがる男を振り切ってバイトへと向かった。そして次の日。駅で地下鉄を待つ彼によろよろと寄りかかってくる者がいた。明らかに昨日の男である。その男は解けた靴紐を結びなおしながら彼に言った。

さっき札幌に着いたところなんですよ。北大を案内してもらませんか?

 不思議な話だ。昨日、札幌に来たと言っていた男が今度はさっき着いたと主張するのである。要するに、好みのタイプに声をかけまくってるだけで、顔なんざ覚えちゃいないのである。

 時間はぐっと流れてある日の話(30/6/1999)。22:00 過ぎに突然携帯が鳴り出した。とっくに帰ったはずの後輩モリトモの名が表示されている。珍しいこともあるもんじゃのと思って取る。「サイトーに電話しても繋がらないから」とか言っている。サイトーというのは彼と同じ学年の後輩君だ。ナンだか一緒に飲む人を探しているらしい。ナンかあったの?と訊いてみる。

「大学の中で変なオジサンに農学部どこですか?って言われて良く分からない間に札幌グラ○ドホテルのバーにつれてこられて飲んでるんだよね。」

と言っている。

あなる・くらいしす

である。流石にこの状態を放っておくほど僕は鬼ではない。彼が今どんな立場にあるのか教えてあげた。研究室の他のメンバーにも聞こえるくらい大きな声で。

「その人さ、間違い無く有名なホモ・おやぢだよ。」
「えぇ〜!!えぇ〜!!えぇ〜!!えぇ〜!!えぇ〜!!」

彼のショックのほどが良く分かる声が携帯からもれる。さうではないか?と、もともと疑いを持ってはいたらしい。だったらついて行かなきゃいいいのにネ。で、そのオヤヂのリクエストにより一緒にお酒を飲む男性を探しているらしい。モチロン僕はごめんなさいだ。すぐそばにサイトーがいたのでそのまま携帯を手渡す。

 しかし、サイトーも全然助ける気は無いらしい。

「ワイン飲んでるんだったらコルクを黄門様に詰めておけば♪」

等と悪魔のようなアドバイス。貞操帯の代りらしい。電話の切り際にはみんなでがんばってネの大合唱。他人の不幸は何時だって蜜の味なのだ、彼らにとっては。そのあとしばらく、いやぁモリトモも遂に大人だね。見事なモテっぷりであるなど、研究室でわいわいお喋り。明日、彼にかけ
る第一声は決まっている。フタリで飲むモーニング珈琲はうまかった?である。

 そんな事をしている間に何故かモリトモ帰還。はぁはぁ言っているが着衣の乱れもなし。どうやら上手に逃げてきたらしい。そんで、そのまま明日まで顔を出さないと何を言われるか分かったもんじゃないので取るものも取りあえず研究室に来たらしい。う〜ん。

 実はそのおやぢ、カラオケでおぢさんの知っている曲を歌えたら一曲につき 1 万円払うよゲヘゲヘとか、新聞記者やってるから校正のバイト紹介してあげるよゲヘゲヘとか、1 ヶ月に 1 回一緒に飲んでくれれば毎月 2 万円払うよゲヘゲヘ等、あらゆる手で後輩君を繋ぎとめようとしたらしい。しかし、後輩君はしつこい男は嫌いなのだ。しかも、仕事の内容を尋ねると、明日から札幌支社に勤務なのでよくわかんなぁぁいとか抜かしたらしい。アヤシスギ。

 で、別れ際の握手だけは断りきれずにガッシリ握り合ってから帰ってきたそうだ。漢の友情である。

 そゆことなんで、理学部近辺の男性は注意するように。傘を持たずに雨の中寂しそうにたたずみ、傘を持っている男の学生に声をかけるという手もしばしば使うらしいので、こんな雨の日は要注意っす。被害者の視点で書かれた手記はこちら(99年6月30日).


モドル

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