「一同礼」

 実家の最寄りのJRの駅の周りは非常にごちゃごちゃしている。いっぺん焼き払わなければ再開発も難しいといった様子である。裏通りなどに足を踏み入れようものなら非常に不穏な空気に包まれてしまう。

 さて、その駅のあたりに通称、「やくざ通り」と呼ばれる短く狭い道があった。今でもあるかもしれない。名前の由来は何のことは無い、単に道の両側にやの付く自由業の方々が事務所を構えていらっしゃるというだけのことである。断っておくが八百屋の事務所ではない。昔は抗争などといって拳銃での打ち合いなども行われた。

 そんなこんなで、あまり足を踏み入れたくない通りではあったのだが、駅への近道ということもあり僕はしばしば自転車でそこを通っていた。

 そんなある日のことである。ぼくはいつものように自転車で無造作に「やくざ通り」へと突っ込んでいった。あら?道の両側に黒いスーツでビッシと決めた強持ての男性方が並んでいらっしゃる。なるほど、このような顔のことを強持ての顔と言うのだななどと妙なことに感心しながらそーっとペダルをこいで進んだ。突然、ざっと黒スーツどもが頭を下げた。おいおい、一高校生にそれはちょっとどうかしているのではないか?と後ろを振り向くと、僕の自転車のすぐ後ろをでっかい黒いベンツがそろそろと進んでいた。

 何も見なかったことにしてまたゆっくりとペダルをこぎだした。その日以来その道を通っていない。


モドル

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