「社長」

 その電話は突然かかってきた。まあ、電話というものはいつも突然鳴り出すものである。これから電話をかけますなどという、FAX を先に送ったりは断じてしないのである。

   もしもし・・・
   「社長!!社長!!やっと大阪に着きましたわ」
やっと着いたわりには見事な関西弁である。いったいどこから出発したのであろうか?取りあえず僕は社長ではない。ないのです。
   えっと・・おかけになった電話番号は間違いだと思いますよ。
   「なんやて!!」
言うに事欠いて”なんやて”である。喧嘩腰である。自分で間違っておいて困った人だ。多分に僕の偏見かもしれないが関西人は大抵困り者である。彼らはよくしゃべり、そして人の話を聞かない。
   だからぁ・・僕は社長ではないし、ここはあなたの会社ではないのです。
   「はよ言わんかい!」 ガチャン
ほ〜らね、やっぱり。人の話を聞いてない。

 いかに温厚な僕といえどもすでに大分ご機嫌斜めになっていた。しかし、もう電話は切れてしまっている。一介の大学生(当時)にはどうしようもなかった。

 その時また、電話が鳴り出した。嫌な予感がする。電話を取った。
   「社長!今、大阪に着きましたわ。」
知ってるよん♪
   だ〜か〜ら〜、僕は社長じゃないって言ってるじゃないですか。
   「なんでやっ!!」
まいりました。今度は”なんでや”ときましたか。ほわぃ?である。なぜと聞かれても僕はそもそもまだどこにも入社すらしていないのである。しかし、一抹の不安が胸をよぎった。もしかしてみんな黙ってるだけで実は社長なのでは?日本国民がすべからく社長であるとしたら僕だけが社長ではないというのは大問題である。昨日演習問題が解けなかった間抜けなあの男も、一昨日、道を尋ねてきた老婦人も皆社長だというのか?信じ難いことである。確かめねばなるまい。そして、”何故?”に答えを出すのだ。
   あのぅ・・あなたは社長なのですか?
   「何言うてんねん!そんなわけないやろ」
   では・・何故あなたは社長ではないのですか?
   「知らへんわ、うっさいなぁ、あんた」
怒らせてしまった。向こうが言ったのと同じことを言っただけなのに。これだから関西人は・・。奴等は人の話を聞かない上に自分の言ったこともすぐ忘れるのである。しかしこちらが向こうの言ったことを忘れるとすかさず、”さっきいうたやないか!”とやられるので、要注意である。
   「大体お前誰やねん!?」 ガチャン
そちらこそ。
その人からもう電話はかかってこなかった。会社の番号が判明したのであろう。おめでとう。関西弁のおっさん。

 その後、やはり僕は社長ではないし、周りの皆も社長ではないことが判明した。一安心。


モドル

このページに関する質問はokamoto@astro1.sci.hokudai.ac.jp まで