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Date:  Fri, 12 Nov 1999 11:55:20 +0900
From:  Habe <habe@astro1.phys.hokudai.ac.jp>
Subject:  [view 000230] Fwd:[reform:02277] 国立大学間・学部間の授業料較差の方向の報道
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Message-Id:  <19991112115520.Postino-023803@astro1.phys.hokudai.ac.jp>
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  大内 定@北海道教育大学札幌校です。

 11月10日の朝日新聞朝刊の報道(これ以外の新聞もあると思うが見ていない)
によると、文部省では国立大学の行政法人化の暁には、独立行政法人大学の授業料
について、大学間、学部間で格差をつける方向で検討している、その結果、お金の
かかる理工・医科系の大学・学部の授業料は高くなり、受益者負担の視点の反映が
色濃いもの、といった内容が掲載されていました。

 報道が本当だとすると(中央紙なので確かな情報による記事と思う)、国立大学
独立行政法人化問題で具体的な検討をする場合、強く恐れていたものの一つが出て
きたという感じです。
 以下の問題が発生するのは、これまでのこのフォーラムの掲載に現れている分析
から明らかです。


1.お金がかかる理工・医系の大学・学部の授業料を釣り上げたら、お金を出せな
 い家庭の子は志望できなくなる。いうまでもなく、これまで果たしてきた国立大
 学の教育を受ける「機会均等」(今でも十分ではないと私は思う)の役割を減退
 させる。
  さらに、理論上、お金を出せない家庭の子は理工・医系の大学・学部からは切
 り捨てられ、今までよりお金のある限られた家庭の子からの志願となり、今でも
 問題となっている受験生の「理科離れ」が一層進み、全体として自然科学系大学
 ・学部の質低下は免れない。

2.授業料に大学間・学部間で格差をつけるといっても、文科系大学・学部の授業
 料が現在の基準より安くなることは、独立行政法人制度からはまず有り得なく、
 むしろ自然科学系の大学・学部との授業料バランスから今より値上げされる公算
 が大きい。つまり、1.と合わせて国民の高等教育の負担はますます重くなる。
 経済不況下、行財政の減量のために国立大が法人化されると、国民全体の税金を
 投入して運営される大学が国民生活に対してはこうなることに、国民の皆さんは
 納得できないだろう。

3.授業料の格差の方向は、独立行政法人化制度の効率化の上の財政削減、企業会
 計の性質から必然的に出されたと考えられるが、その表の理由としては、これも
 行財政改革の視点である「受益者負担の原則」の方針が立てられている。
  ここで大問題なのは「受益者負担」が教育の場、つまり直接には経済力のない
 子どもに適用されることの重大な誤謬で、「受益者」はあたかも経済力をもつ親
 のように思われる錯誤である。たまたまお金の出せない家庭に生まれた子は、志
 望したい学問分野があり能力もあるのに、自分の責任ではないものの高い授業料
 (授業料免除・減免も今までより厳しくなり、奨学金も全面返還となれば躊躇す
 るであろう)が足かせになって目的の大学には志望できない...。
  「教育の場」に「受益者負担の原則」を持ち込むことは、実際は負担者の親に
 ではなく(親は最大限努力はするであろうが、叶わなかった場合)、将来を担う
 子どもへの手痛い仕打ちといってよい。将来、国力が衰える要因の一つとなり得
 る。


 以上、授業料の問題は、前にも書いたことがありますが、私立大でも切実な問題で
「理工系が少ない、充実しにくい」ことと根は同じです。私立大への助成費も大幅に
増額すべき、とも書きました。
 実際、今度の授業料格差の方向を新聞で見て、わが身を振り返ると、まだ高1、高
3の2人の子どもを養い、2人がこのまま4年制大学に進学して同時に在学し、しか
も自宅通学でない場合を想像すると、今の国立大でも年間2人分の授業料が約80万
円、2人が同じ地域の大学に進学して一緒に住まわせる甘い仮定で2人分1か月15
万円の生活費(最低ライン、不足分は少しバイトしてもらう)、合わせて年間260
万円が出費できるか、いまの収入では自信がありません。実際は相当の借金を背負う
ことになるでしょう。
 もし子どもが私大の個性的な、ある理工系大学に何としても行きたい一心で親に内
緒で志望して首尾よく合格した場合、おそらく最低1人分で年間250万円あたりの
出費になりますが、出せないという前にあらゆる借金の金策をするでしょう。自分の
子どもは、たまたま自分に授かったに過ぎないのですから。しかし金策尽きて、自分
の余生ではとても返済できない、つまり金が工面できないと判明した場合は、涙を呑
んで子どもに諦めてもらうしかありません。
 これが私の場合の現実です。

 私には、今回の授業料の格差を文部省が正気で検討しているとは、とても思えませ
ん。独立行政法人制度を当てはめると、どうしてもこうなるので仕方なく検討してい
るのだと思います。本気で検討しているとしたら、検討している本人の家庭も含め国
民の生活がどうなるのかも、念頭にあるのでしょうか。ないとしたら狂気の沙汰とし
か思えないのです。
 翻って私の大学時代の授業料は1か月1,000円(国立大)でした。間隔の詰まっ
た5人兄弟の3男の私を大学にやれた父は、授業料が安くて有り難いと言っておりま
した。有り難いのは大学に行くことの出来た私も同じでした。その当時の父の給料は
1か月約9万円でしたから、授業料は給料の約1/90でした。

 現在の国立大の年間授業料は平均的家庭の税込み給料約1か月分とみてよいでしょ
う。私立大の場合はこれも同様に給料1か月分の2〜3倍といったところでしょうか。
これに遠隔地大学での生活費仕送りを加えると、平均的な家庭ではそのままでは生活
を維持することは困難です。やはりかなりの借金を背負うことになります。これに住
宅を購入することも入ると、子どもの教育か、住宅購入かの二者択一を迫られます。
大抵は子どもの教育を優先するのではないでしょうか。若い世代が子どもは2人以上
となるときついと思うのも肯けます。これが外国からはまだまだ「豊かな国」とみら
れている日本の高等教育の現実です。

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    大内  定(Yasushi OUCHI)
    北海道教育大学札幌校地理学研究室
    〒002-8502
    札幌北区あいの里5条3丁目1番
    電話&FAX: 011-778-0423
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Asao Habe