11m電波望遠鏡

北海道大学理学研究科物理学専攻宇宙物理研究室  

当研究室では、2000年まで郵政省通信総合研究所(現独立法人通信総合研究所)で首都圏地殻変動(KSP)プロジェクトに使用されていた11m電波望遠鏡を、国立天文台・北海道大学の宇宙科学関係研究者と協力して、北海道大学付属苫小牧演習林へ移設しました。今後、本格的な宇宙電波観測を行うことを計画しています。以下に、このプロジェクトの背景や実施状況などを紹介します。

最新情報

   ・H2Oメーザースペクトル(22GHz)観測実験成功(2004.3.18)

     新しい22GHz受信機と分光計を用いて観測実験に成功しました。

   ・超長距離干渉実験(2001.11.19-22)

     北大11m鏡、通信総合研究所鹿島11mおよび34m鏡

    干渉実験に成功、フリンジを確認

   ・11m電波望遠鏡観測器接続・調整工事検収(2001.11.1)

   ・11m電波望遠鏡で宇宙からの電波を初受信(2001.10.16)

   ・11m電波望遠鏡観測機器接続・調整工事開始(2001.9.17)

   ・11m電波望遠鏡電源および観測局舎工事(2001.7より開始)

   ・11m電波望遠鏡組立完了(2001.3.29)

   ・パラボラ取り付け完成(2001.2.22)

   ・アンテナ資材の搬入開始(2001.1.22)

   ・郵政省通信総合研究所KSPプロジェクトのアンテナ解体開始(2001.1)

   ・解体直前の11m電波望遠鏡(2001.1)

   ・北海道新聞がアンテナ移設計画について報道(2000.12.22)

   ・苫小牧演習林内のアンテナの土台完成(2000.11)

   ・苫小牧演習林内のアンテナ建設予定地(2000.9)

1 計画の背景と意義

(1) 学問的背景

 人類の宇宙に対する科学的な関心は世界的に高い。日本でも非常に高く、研究施設の面でも、野辺山45m電波望遠鏡、スバル8m光学赤外望遠鏡、X線観測衛星「アスカ」などの世界的に見ても第一級の水準の大規模研究施設が建設され、大型プロジェクトとして国際的にも注目される研究成果をあげている。宇宙電波の分野では、高精度広域精測干渉計(VERA)が建設中であり、大規模ミリ波干渉計(LMSA)計画が国際協力のもとで進められている。

(2) 研究目的・内容

 理学研究科物理学専攻宇宙物理学研究グループ、北大宇宙科学研究グループと国立天文台の宇宙電波グループが協力して郵政省通信総合研究所で地殻変動観測に使用されていた11m電波望遠鏡を北大に移設し、宇宙電波観測を国立天文台と協力して推進することを計画している。

 北大は宇宙科学が理学研究科、工学研究科、低温科学研究所、地球環境科学研究科で惑星大気から星間塵、恒星の形成と進化、銀河・銀河団の形成と進化などを対象に宇宙の幅広く精力的に研究が進められている。しかし、観測的な研究は十分行われておらず、今回の移設によって北大における宇宙科学の観測的研究を発展させたい。

(3)設備が設置されると研究上何ができるか

 移設を予定している電波望遠鏡は、鏡面精度が高く、数十GHzの宇宙電波観測に使用できる性能を持つ。これによって分子雲や銀河などに分布している星間分子や水メーザー源などの観測が可能である。また、超長基線干渉計(VLBI)観測装置を現有していることから、札幌と野辺山45m電波望遠鏡がおよそ900km離れていることを利用して、45m電波望遠鏡やVERAと超長基線干渉計を構成することで2ミリ秒角の高解像度で原始惑星系円盤の研究や銀河中心の巨大ブラックホール候補天体、遠方銀河の星間分子など現在もっとも注目されているの研究テーマに使用することが可能である。

(4)全学的な教育研究との関係

 このように高性能な電波望遠鏡の移転によって、北大における宇宙科学の観測的研究を発展させることが可能になる。また、基礎科学を目指す学生が北大を希望する目標にもなる。これによって世界的な観測的研究が可能となるとともに、観測装置の開発や観測技術の開発が可能になり、大学院学生とともに、この望遠鏡を用いて観測的な研究を行うことで優秀な人材を北大から輩出することが可能になる。

 この望遠鏡は学内の共同利用を行うことで北大の宇宙科学の発展に寄与できる。現在、この計画は理学研究科をはじめとして、工学研究科、低温科学研究所、地球環境科学研究科など複数の部局の研究者と協力して進めている。この望遠鏡は、先に述べたように幅広い研究テーマに使用することが可能であり国立天文台との研究協力で大きな成果をあげると期待している。


2 宇宙電波観測についての簡単な解説

   

宇宙電波観測

    可視光(スバル望遠鏡など)、X線(アスカX線天文衛星など)とならぶ

    宇宙を観測的に研究する有力な手段のひとつ

  何が見えるか

可視光は星の光

    電波では光では見えない重要な現象が観測できる

     例1 高エネルギー電子からのシンクロトロン電波 

               ------------> 活動的な銀河、超新星残骸

     例2 低温度ガス(100K以下)からの星間分子輝線 

             ------ >星が誕生する星間雲や銀河の活発な星形成領域

     例3 宇宙のメーザー源

             銀河中心の巨大ブラックホールのまわりのガス円盤

 超長基線電波干渉計(VLBI)とは

   数百km離れた複数の電波望遠鏡を用いて、同一の天体を観測し、その結果を干渉させることで空間精度の高い観測(数ミリ秒角)を行う

  

3 移設電波望遠鏡の紹介

 郵政省通信総合研究所の「首都圏広域地殻変動観測計画」(KSP)に使用されて

 いるもので、4台あるうちの1台。

  ・アンテナ口径 11m

  ・駆動方式   方位角・仰角方向駆動(経緯台式)

  ・観測周波数  2GHz、8GHz(現在)

          22GHz(H20、NH3)43GHz(SiO)(受信機が必要)

  ・空間分解能  5’ (22GHzの場合)

  ・製造     4年前(まだ非常に新しい。故障も少ない)

  ・寿命     20年以上

  ・関係装置   VLBI記録装置、水素メーザー時計装置


4 移設電波望遠鏡による研究計画

 @単一鏡として

   1)銀河系内の水メーザー(22.235GHz)のサーベイにより:

      ・電離領域従って大質量星の分布を調べる。これにより(1)系内での

       大局的星形成の研究、(2)銀河系の構造(渦状腕等)の研究を行う。

      ・晩期型星の系内での分布を調べ、古い星従って中小質量星の分布から

       銀河系の構造(質量分布、バルジ等)を研究する。

   2)銀河系内の既知の強い水メーザーの強度のモニター

   3)銀河系内のアンモニア(23.7GHz)の観測から

      ・分子雲の観測により星形成過程の研究

         (4本のラインが同時観測可能なので分子雲の温度等が求まる)

      ・銀河系全体のアンモニアのサーベイにより、大局的星形成の研究

   4)銀河系の22GHz連続波の全天サーベイにより、銀河系のシンクロトロン

     放射や電離ガスの大局的分布の研究。

   5)AGN(電波銀河、QSO等)の連続波強度のモニターから、AGNの構

     造(サイズ等)の推定

 @VLBIとして

  VERAや野辺山45m鏡と組み合わせてVLBI観測を行う。

  22GHzで、2ミリ秒角の空間分解能が達成できるので、いろいろな分野で世

  界的レベルの研究が可能:

   1)星形成領域のメーザー観測から、ジェットや原始惑星系円盤の研究

   2)メーザー観測からAGN(セイファート)の構造と運動

    (例:N4258)

   3)連続波観測からAGN(電波銀河、QSO)の構造

   4)銀河の距離測定とハッブル定数の決定(例:N4258)

   5)重力レンズの研究

   6)赤方偏移したCO等の吸収線の観測から中間zの銀河の構造と性質

   7)その他いろいろ

5 移設計画の進行状況

  2000年、アンテナ移転先を北海道大学苫小牧演習林内として計画を進めている。